これは私が学生時代のお話です。12歳で母を亡くしてから今まで三度夢見に母が現れました。
闘病時とは違って顔色も良くて優しくも凛々しい顔をしておりました。着ている着物は湯灌の時に祖母が新品の綺麗な黄緑色と薄桜のグラデーションの訪問着を死装束を長襦袢として着せたのですが、その姿で現れるのです。楽しいひと時を過ごして目が覚める前に私は必ずあることを言うのです。

「お母さん、成仏しなきゃだめだよ。」

母は返答せずにニコニコとしています。そして目が覚めるの繰り返し。目が覚めると私は毎度号泣をして右手を何故か天に向けてあげている格好で目が覚めるのです。

姉の夢見には頻繁に現れるわりに私には殆ど現れてくれない。私の夢見では絶対に会話はしてはくれない。一方的に私が話し掛けているだけ。冷血女と言われた私ですから、話し掛けたくなかったのかもしれません。

私は母を亡くした後、重度の鬱でしたので家から自転車で物凄い坂道を登って1時間程かけて墓へ行き何時間も日が暮れるまで墓場にうずくまっていることもありました。今では夢見を見ないのできっと上へ上がれたのでしょう。

しかし、母の半身は成仏せずに未だこの世に留まっています。あの元住んでいたボロアパートに。自我があるのか私たちには危害を加えませんでしたが、ボロアパートの他の住民に被害が出てすぐに引っ越していく・病気になって入院する・逮捕される、はたまた同じ地区の母をネチネチ虐めぬいていた者も同じく癌が見つかりました。

母の半身は死後数年間はボロアパートに留まっていましたが、夜中にトントントン…とダイニングで料理の音がしたり、夜になると生きていた頃のように活動していました。
私が霊能力が復活してからは毎夜金縛りや心霊体験遭ったあとリビングに行き、お線香を焚いていると二手に煙が分かれて行くので、ああ母がまだいるんだな…と感じました。

母の半身の鬼化してしまったモノはやがて自我を無くしていくでしょう。こんな短期間で鬼化してしまう程の強い思い。どれだけ母が「生」に対する執着さがあったのかは分かりかねます。私が亡くなった時には母も連れていわゆる地獄へ一緒に行く所存です。
母は許したつもりでも親族以外の者からの陰湿な田舎特有の新参者への虐めは許せなかったのでしょう。人を道連れにしようとしたこともありましたね。いくら親友でも引き込んではいけませんよ。

そこで全てを終わらせることができるのなら。
私は転生もしませんし、御仏の慈悲で半身の母が完全体となってまた転生できるのかいわゆる上でしばし過ごすのかは分かりませんが、私はなるべくならこれ以上生者へ干渉はしないで欲しいなと思いました。

母は父の前妻も許してないのでしょう?
だから同じように癌にさせて。もう許してあげてください。元はといえば家庭を壊して略奪した母が報いるべき者なのですから。それを前妻だけ恨むのはお門違いです。恨むべきは父ですが、父も本来なら私に話さず墓場まで持っていこうとしておりました。
もう貴女は死者です。今の私には鬼化した貴女を助ける術は持っていません。けれども亡くなる時に迎えに行きます。
そしたら、母子共にずっと一緒にいましょう。
私はずっと貴女に伝えたかった一言が言えませんでした。臆病者で意固地な娘でごめんなさい。
「大好きです。産んでくれてありがとう。」