まだ学生時代にチャンネルのONとOFFをコントロールできなかった頃の話です。私は部活動をある時からボイコットし学校終わりにそのまま浅間大社隣の図書館へ行って歴史の専門書などを借りてよく読んでいました。

コピー機が図書館内にあったので外へ持ち出せない(借りれない本)本をコピーしたり、ノートへ書き写したりして黄昏時になり図書館の閉館時刻が迫っていたので本を数冊借りて隣の浅間大社の境内で読もうと思いました。

自転車を停めて軽く手水と御参拝したあとさていつもの場所へ行こうと思っていると、ある男性が鳥居前に立っていました。

ですが、その男性には不思議と光る人形がついていました。肩口に寄り添うようにふわふわと浮いている。私が波長が合うモノ・悪霊や死神級のモノは視えますが、その光るモノは私に視えているということはきっと…神格のあるモノ。

(この人、魅入られたんだな。)

たまに霊格のあるモノや神様に魅入られる方がいます。生きているうちは幸福ですが、亡くなった後は供物となります。要は嫁婿取りと呼ばれたりします。

その男性が鳥居の中に入ろうとしてきたので私はその方に話し掛けました。
「…あの、いきなりすみません。あなたはこの大社には入らない方がいいと思います。」
「えっ、君誰? なんで参拝してはいけないの?」
「…あなた前にどこか霊験あらたかな社へ御参拝した事ありませんか?そこで何か視えたことありませんでした?」
「たぬきかな?よく分からないけれど前に行った○○社の境内で見かけたよ。」
「あなたのことを守ってくれているようですが、嫉妬深いようですからこの境内に入るとよくないかもしれません。差し出がましい様ですが、あなたの肩口に寄り添っています。神格が高いので視えませんが、婿取りしたみたいですよ。ここは主祭神様が女神様です。嫉妬される可能性があります。」
「………そう、ですか。他県からこの大社に参拝へ来ましたがやめておきます。」
そういうと踵を返してその方は去っていきました。

…そう、婿取り。神様によっては永い時を共にできる人間は居ませんが気に入ったものに幸いをもたらしてくれることもあります。
しかし、幸福が保障されどその方は生涯伴侶は持てない(恋人や伴侶がいても必ず別れてしまう)んですよ。

そして死後は供物となり、その神様へ仕える身となります。供物となった元恋人の従者は永い時を過ごしある程度霊格を得ると本物の霊能者が正しい行いをする際に式霊として降り立つ事もあります。要は神様の代わりを務めるわけですね。

あの男性、魅入られてから随分と気に入られていた。光って視えなかったけれどかなり神格がある神様なのではないでしょうか。
この後にチャンネルを普段はOFFに切り替える方ができる様になったので今ではあまりそういった魅入られた方をお見かけする機会はあまりありません。

しかし魅入られて幸福を得ても、神に守られる代償として早死にしてしまうこともあるので、一方的に気に入られて寿命を削られてしまうのは果たして良いことなのか悪いことなのか。
それを知る術はありません。